難波家秘蔵映像5 最上稲荷初詣

昭和7年(1932年)1月3日、当時兵庫県芦屋市に居を構えていた難波富一郎一家は、正月に合わせて両親の住む倉敷市東町に帰省しました。これは富一郎とその長男、両親の4名で最上稲荷および吉備津神社に初詣の参拝に出かけた様子を撮影した動画です。

 
■この動画について
難波家13代目の富一郎は、当時珍しかった16ミリフィルム動画撮影用のカメラを所有していました。彼が撮影した多くの動画は幼稚園から小学校の頃の息子と娘の様子を撮影したもので、現在のホームビデオと全く同じような用途です。今回公開するのは当時兵庫県芦屋市に在住していた富一郎一家が昭和7年の正月に倉敷東町の難波家本宅に帰省した時、当時から県下最大の初詣参拝者を集めていた最上稲荷に参拝する様子が撮影されています。
最上稲荷は今日でも岡山県内で最も多数の初詣参拝者が集まる日蓮宗の寺院です。江戸時代以前の神仏習合の形式を残した全国でも珍しい施設です。倉敷から岡山経由で鉄道で行くこともできましたが、難波富一郎は倉敷東町よりハイヤーで直接最上稲荷に向かいました。彼らが乗車したハイヤーの他、撮影をおこなったカメラマンが乗った自動車が同行していたと思います。
最上稲荷の本殿の参拝を終えたあと、奥の院に行くため一家はケーブルカーに乗ります。このケーブルカーは第二次世界大戦中の昭和19年に軍用の金属供出のため廃線になります。この映像は実際に動いているケーブルカーが撮影されている極めて貴重なものです。
 
■動画の解説
最初の映像は昭和7年1月3日の日めくりカレンダーです。この1月3日の日めくりには日の丸の旗が描かれています。明治から昭和初期までは1月3日は元始祭(げんしさい)と呼ばれる祭日でしたが、昭和23年に廃止されました。

 
家族は東町の本宅を、ハイヤーに乗って出発します。丸に十字のマークがはいった暖簾がかかっている建物が、難波家の本宅です。難波家は当時この場所で呉服店を営んでいました。
ハイヤーの車種はフォードのモデルA。フォードモデルAは部品の状態で日本に輸入され日本の工場で組み立てられていました。主にタクシーやハイヤーとして使われていました。

 
この写真は、現在(2025年)のおなじ場所で撮影したものです。90年以上の歳月が経過していますが、倉敷東町のこの近辺は当時からまったく変わっていません。

 
一家を乗せたハイヤーは、鳥居をくぐって最上稲荷に向かいます。この鳥居は昭和47年に赤色の大鳥居に建て替えられました。現在正月三が日に最上稲荷に自動車で出かけると大渋滞にまきこまれることになります。昭和7年当時は吉備線の備中高松稲荷から最上稲荷参道の入り口近くまで支線が伸びていて、ほとんどの人は自動車でなく汽車で最上稲荷に行きました。

 
この日初詣に出かけたのは、左から難波富一郎と彼の母「柳」、父の「弥一郎」、長男の「康則」の4名です。
富一郎の妻の「佐規子」と長女の「章子」の2人は東町の難波家本宅で留守番です。当時倉敷の本宅に住んでいたのは弥一郎夫婦のみで、富一郎夫婦とその2人の子供はは芦屋市に居住しており、折々に倉敷に帰省していました。この4名に加えて、富一郎が手配したプロのカメラマンが初詣に同行して撮影をおこなったものと思われます。

 
一行がカメラに向かって手を振っていますが、注目してほしいのはその背景。最上稲荷境内から奥の院を結ぶケーブルカーの駅です。
 
ケーブルカーの正式名称は「中国稲荷山鋼索鉄道」。現在のJR津山線・吉備線を運営していた中国鉄道(現在の中鉄バス)の子会社の路線として、1929年(昭和4年)2月9日に開業しました。中国地方には他にケーブルカーが無かったため、この路線が唯一の存在ででした。ケーブルカーの所要時間は4分、運転間隔は20分毎でした。戦時中に不要不急線に指定され、昭和19年6月1日に鉄材供出の名目で撤去され、廃線となりました。(Wikipediaからの引用です)

 
参拝を終えた弥一郎夫婦は、参道に並ぶ店でお土産を買い求めます。手元にぶら下がっているのは、現在でも最上稲荷土産の定番、柚子せんべいでしょうか?

 
最上稲荷の参拝を終えた一行は、吉備津神社へ移動します。現在だと平日なら車で10分ほどの距離ですが、正月三が日なら大渋滞で1時間もかかるようなコースですが、車で移動する人がほとんどいなかった当時はどのくらい時間がかかったのでしょうか?

 
吉備津神社も最上稲荷と同様、岡山県民にとってはポピュラーな初詣スポットです。写真の渡り廊下は本殿(右手前になります)と社務所をつないでいたものですが、現在は存在しません。

 
こちらは難波家別荘の縁側。向かって若い女性が富一郎の妻の佐規子。彼女が抱いている少女が娘の章子(ふみこ)です。章子お土産はもらったものの初詣に連れていってもらえなかったためかちょっと不機嫌です。